第1章 風変わりな授業と手づくり数学

学校数学では、幾何学的直観、物理的直観、sense of fun(オ モシロサがわかること)が3つの基礎的成分であって、第4の 成分、厳密さの感覚というのはひとりでに育つだろう                             ジーマン

第1節 タイルで遊ぶ代数第一歩

   数学の教育が立ち向かわねばならない真の問題は、厳密性の問     題ではなくて、「感覚=意味}の構成の問題であり、数学的対     象の「存在論的正当化」の問題である ルネ・トム

1.ん!? タイル並べで因数分解  
 周辺地区の実業系高校の数学教師達が見守る中、その授業は始まった。
 生徒一人一人の机の上には、大きさ数種類の正方形と長方形のタイル状
の「もの」が積まれている。生徒達は、黒板の式を見ながらそれを大小の
正方形や長方形数枚の「もの」に翻訳するかのように取りだしている。
   例えば、2X2+9X+4はというようにである。
 教 師 今日は因数分解ということを勉強しよう。
     まず、因数分解ということを、まえに勉強した展開にまで遡っ
て考えて見よう。
     いま、このワラ半紙の2辺の長さが2X+1とX+4とすると
と手に持ったワラ半紙の2辺に荒っぽく印をつけ
 この面積は、2辺の積(2X+1)(X+4)とも、多項式
2X2+9X+4 とも表わされる。
つまり
       (2X+1)(X+4)=2X2+9X+4
という等式が成り立ち、この右辺から左辺を導くことを「展開」
と言ったのだった。 
このワラ半紙の線でハサミを入れると
とハサミを入れバラバラにする。    
 

こういう状態になる。この方が、
        (2X+1)(X+4)=2X2+9X+4
という「展開」の意味を言い表わしているかな。
       さて、このバラバラになった「もの」の面積を合せて
「できた」同じ面積の長方形の面積を2辺の積で表わすと
と、教師は生徒の机上にあるものよりも少し大き目の、黒
板に張り付けられるタイル状の「もの」で操作しつつ、
「展開とは逆の操作もあることになる」と実演し、「因数分解」とは、この、
展開とは逆
    2X2+9X+4=(2X+1)(X+4)
の式変形を指して言う。
それでは 多項式
   2X2+7X+3
を因数分解してみよう。
この因数分解の定義を受けて、生徒達は多項式2X2+7X+3の長方形づく
りに取り組む。
 生徒A
  というんでどうや。
 生徒B うーん! 長方形ができたけど、長いタイルが二つ余ってしもうた。
 生徒C (生徒B の操作を隣で見ながら)1のタイルを横に並べるのでなく縦
に並べてみたら・・・・。
     ほーら、出来た!!  
生徒D  あれ?! わたし、皆と違う長方形ができたわ。
生徒A  え!? 違う並べ方でも長方形が出来た?
     そんなにいろんな並べ方ができてもいいんか?
   数学の答えは一つと違うんか?
 生徒C  とにかく長方形ができたんやさかいその面積を二辺の積で表わ
  してみんか。
     えーと、俺のは縦がX+3で、横が2X+1だから
 
二辺の積の式は
        (X+3)(2X+1)
     ということや。
      D君のんやったら、縦X+1で、横は2X+・・
     うーん!? これやったら読み取れんがいね・・・・。
 生徒A そんなことないやろ!? 長方形ができとおるのやさかい?

と首をかしげつつもう一度長方形づくりにチャレンジする。
 生徒D  私のなら、横は2X+1、縦は1+X+2でX+3。 
      なーんや、結局(X+3)(2X+1)や。
 長方形づくりに試行錯誤を繰り返す生徒A、そこに数名の生徒と教師が
集まって、その並べ方を見ながら、「それでもまだ長方形になっとらんが
いや」
とか
という並べ方を繰り返す生徒Aに、「Xと2では長方形出来るんかいな」
などと一緒に長方形づくりに取り組む。

 生徒A あっ!? そうか。きちんと並べたらはみ出して長方形になっと
らんがや。並べ方が駄目やったんや。 

こうして生徒達、「先生!! 答え(X+3)(2X+1)やろう。」

 教 師 うんそうや。それでは同じようにして次の各式を因数分解して
みてくれ。

と型分けでいえば同じタイプの演習問題を与える(読者も添付のタイルを
使って実際操作して因数分解に挑戦して下さい)。

 問題1 (1) 4X2+8X+3   (2) 2X2+7X+6
(3) 2X2+13X+6  (4) 4X2+15X+14

 こうして、生徒達は訪問者の前で教え合い、学び合いながらつぎつぎと
式を因数分解していく。
 この「もの」の操作の段階では、最終的には、出来ない生徒は一人とし
ていないことになる。